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高品質・高速陽極酸化を可能とする高周波・バイポーラ電源

高品質・高速陽極酸化を可能とする高周波・バイポーラ電源=High frequency, bipolar power supply realizing high speed, high quality anodization=

近年のパワー・デバイスの進歩は、目覚しいものがあり、パワーエレクトロニクスの世界でその活用が急ピッチで始まっている。最新のパワー・デバイスを活用した場合、どんな表面処理用電源ができるのか、そしてその将来可能性はどこまであるのか、アルミニウムの陽極酸化を事例として取り上げ、どんな技術的改善可能性が見えているのかを紹介する。

 1. 緒言 2. 課題 3. 陽極酸化電源の開発
 4. 試験概要とその結果 5. 考察 
 6. 電源の改善と陽極酸化条件の最適化
 6-1. 印加パターンの改善 6-2. 電気化学的考察 6-3. PC接続、PC制御
 7. まとめ  


1. 緒言
  国内アルミ出荷量は、年400万トンを超え毎年増加の傾向にある。そして出荷のトップは、輸送関連(主に自動車)となっている。自動車メーカーの燃費対策は、自動車用材料として高張力鋼板の導入とともに、非鉄金属、プラスティックスの導入を加速した。非鉄金属ではアルミニウムの導入が進み、自動車1台当り消費量は100Kgを越え2010年では台当り119Kgが消費されると予測されている。一方プラスティックスも、強度が上りかつ資源再利用の可能性が増大すればさらに活用が進むものと考えられている。国内自動車向けアルミニウムの総使用量は、04年で1,400Kトンを超え、そのうちキャスト、ダイキャストを合計すると1,130Kトン(総使用量の78%)を占める。材質面では、ダイキャストの94%がADC12が占めている。これらダイキャスト・アルミニウム合金に対して表面処理のニーズが広範に存在するものの、シリコンを多量に含有する表面層への陽極酸化を、均一かつ高速に陽極酸化することはかなり困難なことであり、通常数10ミクロンの膜厚を得るのに、1時間前後の時間を要している。


2. 課題
  アルミニウム合金に対して、大電流、高電流密度印加を行うと電流の局所集中とともに焼け、膜欠陥、平滑度低下などの問題が発生する。最適品質の膜形成を狙って低電流・長時間印加を行えば、溶解と生成が最終的にバランスし膜厚はある時間で限界に達する。しかも多数量処理を行おうとすれば多数台の設備を導入しなくてはならず高額な投資を必要とする。すなわち、自動車用途など量産分野で、高品質膜を高速で陽極酸化できる技術が開発されることが強く求められている。特にADC12やジュラルミンのようにこれまで難陽極酸化材料と考えられていた材料へ、高品質かつ高速に陽極酸化できれば現在抱えている多くの問題を解決できる。もし、ダイキャスト部品の機械加工のタクトタイムに近い生産性で陽極酸化処理が可能となれば、機械加工工程と連続してライン編成が可能となり、大幅な原価低減の可能性が見えてくる。


3. 陽極酸化電源の開発
  これまでのパワーエレクトロニクスの領域ではそのほとんどがサイリスタ方式によって構成されていた。図1.に示すように、パワー・デバイスMOS−FETは低電力(100W以下)の情報機器、通信機器への導入が進み、MOS−FETの最大の優位性である高速性の特徴を生かして、電力密度の非常に高い装置の実現が可能であり、出力数10kW以上の装置にまで多用されている。IGBTは、従来 大型のインバータで多用されていたトランジスタモジュールに代わる画期的なデバイスとしてパワーエレクトロニクスにデビューした。その後、幾世代かの性能改善が重ねられた。現状ではパワーエレクトロニクスを最も代表するデバイスとなっている。 IGBTは産業用の容量数kW〜数100kWの誘導加熱電源装置等に多く採用されている。
本文で紹介しているパルス出力型の陽極酸化電源では、“高速且つ大出力”といったIGBTの最大の特徴が生かされている。
弊社は、10年前ほどに、日本原子力研究所様向けに、IGBT素子を活用した高電圧(直流130kV)、大容量(350A最大)、高速(7マイクロ秒以下)遮断器(図2.に示す)を開発・納入したことをはじめとしてIGBT素子などのパワー・デバイスをパワーエレクトロニクス分野へ応用することについて先鞭をつけてきた。 図3.に示す陽極酸化用試験電源では、定格1200V,600A定格の高速用のIGBT素子をチョッパーのスイッチとして用い 直流電源の出力電圧を高周波の矩形波に切り出す仕組みを考案、正負各々に直流電源とIGBTスイッチを持たせ多重化することにより、高周波バイポーラ電源として完成させた。その概略構成を図4.に示す。 試験用電源では、正側負側各々に110V20Aの直流電源を持たせ、周波数は、1〜15kHzまで0.1kHz刻みで設定できる仕組みとし、1周期の中を正負各々に対して50:50で分割、その中をさらに正負印加パルス(デュティ)各々0〜45%まで設定できる仕組みとした。すなわち、10kHzであれば、1周期100μ秒、そのなかを50μ秒ずつ正負に割り振り、50μ秒の中を 0〜45μ秒までパルス印加できるよう設定が可能な仕組みにしている。




4. 試験概要とその結果
  実施した試験条件の概要を表1.に示す。試験材料としては、ピュアアルミ、1000系、6000系から難陽極酸化材料といわれる2000系、ADC12まで5種類を選択、前処理として弱アルカリ性脱脂を行い、浴温10度C硫酸濃度約200g/Lの電解液にて陽極酸化を実施した。周波数は、5〜15kHzまで、正側電流密度は、6〜18A/dm2を印加した。負側印加としては、〜-5Vまでの定電圧印加とし、デュティは、20〜45%の範囲で、正負同じデュティに設定し、ソフトスタート3分を含む15分の電解を行った。
この電解条件での成膜結果を図5.に示す。これまで難陽極酸化材料とされてきたA2017やADC12に対してもA1100と大差ない速度で成膜できたことを示している。図6.にピュアアルミ皮膜破断面のSEM写真を添付する。六角柱状構造を持つ陽極酸化膜が極めて均一に整列されて形成されたことを示している。図7.に、正側電流密度から負側電流密度を差し引いた電流密度(実効電流密度と呼ぶ)を横軸とし、皮膜成長速度を縦軸としたグラフを示す。比較的陽極酸化が容易なA1100やピュアアルミでは、12A/dm2前後の実効電流密度印加が可能であることが確認された。また、これまで難陽極酸化材料であるADC12でも6A/dm2以上、A2017では10A/dm2以上の実効電流密度印加が可能であることも確認された。図8.にADC12皮膜断面図を示す。難陽極酸化材料とされていたADC12に極めて均一な膜付けが出来ていることが観察できる。多量に含むシリコンを陽極酸化膜が巻き込み包み込むような構造となって皮膜が形成されている。出来上がった膜の硬度は、硬質アルマイト条件で陽極酸化したわけではないものの図9.に示すようにA1100でHv320前後、A6061でHv370前後の硬度が測定された。ADC12については表面状態のバラツキの影響か、硬度はHv130〜Hv260まで広く分散した。図10.に平滑度の結果を示す。A1100,A6061で二次元表面粗さRa0.3以下と極めて良好な平滑度を得た。ADC12でもRa0.6前後の数値となった。








5. 考察
  高周波バイポーラ電源を用いて基礎的な実験を行い、高速かつ高品質な膜付けが技術的に不可能ではないことが実証された。では 更なる高速化・高品質化は不可能なのか? 更なる高速化・高品質化に向けて、電源を主体として以下の点から検討を進めた。‥徹/電流印加パターンの再検討、電気化学的考察、PC接続と制御 の3点である。


 6. 電源の改善と陽極酸化条件の最適化
6-1. 印加パターンの改善
  上記に紹介した試験電源では正負配分を50:50に固定していた。しかし実際に陽極酸化に貢献するのは当然正側印加の場合のみであり、正側印加が最適条件になることが好ましく、負側印加時間・印加消費電力は限りなくゼロに近い方が好ましい。一方負側印加もしくは休止期間の設定により冷却効果が高まる可能性があることも考慮し、正負配分を任意に設定できるように改造し、さらに正負印加パルス(デュティ)も別々に設定できるように改造した。これにより1周期の中で、冷却効果を維持しつつ、極力ムダ時間を排除し、周波数にもよるが正側印加割合を85%前後まで引き上げられる構造にした。こうした改造により、周波数(周期)、正側負側各々の印加電圧、電流、各々の印加時間(パルスデュティ)、ソフトスタート時間などのファクターを、定電圧、定電流制御を含めほぼ自由自在に条件設定できるようになり、種々の試験を進めている。   
   また、これまでの高周波バイポーラ電源では正負2波を多重化(1波に合波する)する構造にしている。この概念を広げていくと、正負2波ずつの多重化も可能となる。急峻な立ち上がりのために瞬間的に高い電圧のパルス印加を行い、続いてフォローする形で適切な電圧を印加するパルスを流す、負側も同様に、急峻な立下りを実現する逆極性印加を短時間パルスで印加する構造である。概念図を図11.に示す。こうした可能性も実証段階に入った。


6-2. 電気化学的考察
  電源開発に当り、印加条件を詳細に最適化する上で、電気化学的考察は極めて重要な意味合いをもつものと考え、極力試験結果を追従する形で電気化学的考察を行ってきた。正側印加と負側印加によりアルミニウムとバリヤー層界面、バリヤー層と電解液界面でどのようなイオンのやり取りが行われているのか、そして陽極酸化処理をより高速化する上でどのような正側負側印加が最適なのかを検討してきた。陽極酸化において、バリヤー層中のAl3+イオン、O2-イオンは、その拡散速度の限界から、電解進行に伴ってアルミニウムとバリヤー層界面、バリヤー層と電解液界面で極めて高濃度レベルに達すると考えられる。この帯電しているAl3+イオン、O2-イオンを、次に印加する正側パルスへ悪影響を及ぼすことなく、効率的に放電することができれば高速パルス印加が可能となると考えられた。このことは、試験において正側印加後に瞬間的な電気的「ゆさぶり」を与えることにより、次に印加する正側印加パルスの波形を全く乱さず、次から次へと高速で正側印加が可能であることが実証された。


6-3. PC接続、PC制御
  陽極酸化においては、表面の電気的特性が逐次変化していくことが、最適膜質を実現するうえで要制御ファクターと考えられていたが、電流密度をあまり上げることなく長時間での電解が許される場合には、さほど重要な検討課題にはなりえなかった。しかし、大電流密度での印加は、極めて短時間で表面欠陥を生じさせることとなる。この解決方法として検討始めているのが、PC接続による電圧、電流、抵抗値などの常時モニターであり、成膜状態を代用特性としての電圧や抵抗値でモニターし、ミリ秒オーダーで印加条件を最適化することである。現在の試験電源でも、周波数の設定を除いて、陽極酸化処理中に設定条件を変更することが容易に出来るような仕組みになっており、時間的経過に応じて意図的に膜質を変化させることも可能になっている。
  最適化に当っては、正負配分の最適化、印加時間の最適化などの手法を閾値の設定から自動制御ロジックを組み込むことまで可能となる。しかし、合金材質や陽極酸化処理目的など様々なニーズに対して、一つの制御ロジックが万能薬的解決策にはなりえないことがわかってきており、個別ニーズに即してカスタム開発の必要性が高い。こうした制御ロジックを開発する上で、マイクロ秒単位で変化する電圧・電流印加状態をモニターし、試験経緯と陽極酸化処理結果とを詳細に対比可能とするDAS(Data Acquisition System)が求められている。この点は、量産体制に移行すれば、品質管理上トレーサビィティが求められることとなり不可欠のものとなっていくものと思われる。


7. まとめ
   高周波大電流印加が可能となる陽極酸化では、電源と電極までの配線、電極とワークとの結線接続など、種々様々な問題に直面したがそのほとんどについて解決策が打たれつつある。電気化学的考察を進め、印加パターンの最適化を進めることにより、ほぼ現状の電源で最適印加条件を見つけ出してきている。これにより、ダイキャスト品の軽度切削表面に対して、Hv300程度、10+ミクロン厚さの皮膜を5分前後の処理時間で陽極酸化できる目処が立ってきている。さらに硬度を上げるため、有機酸を電解液に用い、Hv500前後、10分で20ミクロンの膜付けを目標とし試験を重ねてきている。

高周波電源による陽極酸化により、ピュアアルミを材料として極めて理想的な六角柱状構造が、相当の厚さで可能となることが観察された。すでに、ポア基底のバリアー層を除去し金メッキし、ナノドット、ナノピラー化するなど、ポアフィリングについては種々の研究が発表されているが、こうした新しいナノデバイス研究のため更に特殊な電源仕様が求められるのであれば、ぜひ開発を検討したい。

  IGBTの進歩は目覚しく、現在では、1,200V、400Aで,50kHzを超える高周波領域でも使用可能なパワー・デバイスも出現してきている。これまで試験してきた周波数領域を上回る周波数領域で高出力印加が可能になってきている。IGBTの進歩したデバイスであるIEGTには、耐圧4,500V電流1,500Aクラスの超大電力のデバイスも実用化されており、新幹線車両用などの主電動機用のインバータに活用されている。表面処理の世界でも、数10kHzを超える高周波領域での大電流印加や、数1,000Vクラスの高電圧印加が十分視野に入るようになってきた。最先端のパワー・デバイス応用を積極的に進め、高度化する顧客ニーズに迅速かつ正確に応えるよう開発を継続していきたい。

  これまで電源の開発、評価に当り数多くの方々にご指導、ご協力をいただきました。特に、軽金属製品協会試験研究センターには、大変お世話になりましたこと誌面をお借りして謝意を表します。



 

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